2011年4月19日火曜日

科学技術立国のおごり…世界が「日本人」を考えた

1000年に1度という大地震・津波と原発事故。歴史上例がない災いに「我慢」の精神で立ち向かう日本人。4月18日にはトヨタ自動車が東日本大震災の影響で停止していた車両生産を再開し、これで国内の主な自動車メーカーがほぼ5週間ぶりに全工場での生産再開にこぎ着けるなど、日本人は困難にもひるまず復興への道を歩んでいる。東と西、伝統と超近代が交錯する日本とは何か。今、世界の知識人たちはかき立てられたように日本を論じている。
文明鍛えた自然の猛威

 東日本大震災は、日本や日本人の特性を世界に強く印象付けた。それは3月11日の地震発生直後にフランスの政治学者ドミニク・モイジ氏が言った「自然が挑戦する日本」「破壊と復興」を繰り返す日本の特殊性だ。
 モイジ氏は繰り返し訪れる破壊を乗り越える力に、「西欧文明にはない集団的な規律、運命とそれへの抵抗、他者への配慮を合わせたユニークな遺伝子配列を日本人は持つのか」と驚いている。唯一の被爆国であり戦争の壊滅の末に、よみがえった日本、先進技術を誇りながらも自然の猛威にさらされる日本を神秘性を持って見つめる。大きな影響力を持つ英経済コラムニストのマーティン・ウルフ氏は「悲劇に鍛えられた文明があるとすれば、それは日本だ。日本人は(悲劇を)乗り越える」と書いた。

歴史が培った「我慢の美学」

 地震から1カ月の4月11日、米首都ワシントンの大聖堂で開かれた「日本のための祈り」では、宮沢賢治(1896~1933年)の「雨ニモマケズ」が紹介された。朗読された一節「アラユルコトヲ/ジブンヲカンジョウニ入レズニ」という他者優先の思想は、米社会には新鮮だろう
 我慢を歴史的に掘り起こしたのが、米小説家のポール・セロー氏(70)だ。危険を冒し原発の冷却作業に当たる技術者は、南朝軍の楠木正行(くすのきまさつら、1326~48年)が圧倒的な戦力の足利軍と交えた48年の「四條畷(しじょうなわて)の戦」を日本人が今も美化するのを思い出させると言う。歴史的な惨禍が続く日本で、「サムライ精神」は固有の美学として生き続けていると見る。
 だが、欧米がたたえる日本らしさは原発事故では逆効果となった。フランスの経済思想家ジャック・アタリ氏(67)は、日本人の「プライドと傲慢、秘密好き」は事故の深刻さを隠したと批判、原発情報を公開し事故処理で国際的な支援を受け入れても「恥ではないのだ」と呼び掛けた。日本人よ我慢するなというわけだ。
 美徳である服従心は政府や事故を起こした東京電力に「大失敗しても猛烈な抗議や社会不安を招かない」(英誌エコノミスト)安心感を与え、今回の事故の遠因となったし、再発防止や復興でも弱さにつながるとの懸念も国際メディアは伝え出した。
科学技術先進国で起きた安全神話の崩壊に世界はショックを受けた。
 大量の放射線を浴びる危険な原発内の事故処理は日本が世界に誇るロボット技術を活用したい、と誰しも思う。米紙ワシントン・ポストは「ロボットで知られる日本だが、原発で役立たず」との見出しの記事で、日本のロボットは「話し、踊り、バイオリンまで弾く」が、原発災害は想定外だと嘆いた。17日にはロボットが原子炉建屋内を調査したが、これは米国が無償提供した。フランスとドイツにも原発災害で活動するロボットが開発されているという。
 米紙ウォールストリート・ジャーナル元発行人のゴードン・クロビッツ氏は先進国日本で起きたこの災害の教訓は、「複雑なシステムが何を起こすかを予想する知識を人間は持っていない」ことだと述べ科学技術立国のおごりを指摘。「最新技術を使いながらもその不確実性を知る」必要があると論じた。

無能な政治突き上げる大衆

 世界のもう一つの関心は日本が変わるかだ。高齢化、赤字、中国の「脅威」を抱え、大震災前から変革は必要だった。
 米国の日本歴史研究家マイケル・オースリン氏はこれまで日本人は統治を何でも受け入れてきたのではなく、江戸期の百姓一揆を例に、有事に無能な政治は大衆の突き上げに遭ってきたと指摘した。
 米政治評論家E・J・ディオンヌ氏(58)は、日本で始まった自発的な団結の動きや独創的な被災者支援に着目し、「改革とは上からではなくて、下から起きるものだ」と断言、民衆主導の変革の到来を予想している。
       ◇
 【東日本大震災の被害者数】(4月18日午後6時現在)
死者確認    1万3895人
行方不明者   1万3864人
避難者    13万7696人
※警察庁まとめ

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